東京高等裁判所 昭和24年(ネ)636号・昭24年(ネ)637号・昭24年(ネ)638号・昭24年(ネ)639号・昭24年(ネ)640号・昭24年(ネ)641号・昭24年(ネ)642号・昭24年(ネ)643号 判決
控訴人等代理人は、原判決を取消す、各控訴人所有の別紙目録記載の各農地につき之に対応して同目録に記載の各被控訴人が夫々(各目録記載の時期に)爲した農地等買收計画決定を取消す。訴訟費用は第一、二審共夫夫各被控訴人等の負担とすとの判決を求め、被控訴人等代理人は各控訴人の控訴を棄却すとの判決を求めた。
当事者双方代理人の事実上の陳述は、控訴人等代理人において、自作農創設特別措置法(以下單に自創法という)は、旧憲法施行当時に制定公布されたものであるから、現憲法の下においては無效であり、從つて同法に基ずく本件各農地等買收計画も無效であるとの主張は、撤回すると述べ、被控訴人等代理人において、これに対する反駁の主張を撤回すると述べた外は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
控訴人等がいずれも、別紙目録記載の各土地を所有しているところ、同目録に対応して記載の各被控訴農地委員会が、昭和二十二年七月以降、同目録に各記載の日時に、右の各土地に対して自創法第六条第三項及び第三十条第三十一条の規定に基ずいて、買收計画決定を爲した事実、自創法第六条第三項所定の農地買收の対価算出方法が、控訴人等主張の如くであり、同基準により算出した農地の価格が、控訴人等主張の金額となる事実並びに自創法制定当時及び昭和二十二年度の一石当り米価が、控訴人等主張の如くである事実は当事者間に爭なく、控訴人等は、右自創法所定の対価は、本件買收計画当時の米価による自作收益価格(控訴人等はこれを、田について反当金八千二百三十一円五十銭と主張する)より遙かに低廉であり、また本件買收計画決定中に含まれている未墾地(山林)の時価が、他の諸物価に対応して非常に高価なることにかんがみれば、本件買收の各対価は、到底憲法第二十九条第三項にいう「正当な補償」とはいえない無效のものであるから、取消さるべきものであると主張するので、先ず自創法で農地の対価を定めた規定が、憲法違反であるかどうかを審按する。
終戰後わが国が、ポツタム宣言を受諾する降伏文書に署名して、新たに平和的、民主的、文化的国家として再発足することとなつた結果、政治、経済、文化等の各方面に亘つて、同宣言の一条項たる「日本国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障碍を除去する」ため企てられた改革の一環として、農地改革が行わるることとなつたのであるが、先ず第一次の農地改革として、從來の農地調整法を改正し(昭和二十年十二月二十八日法律第六四号)在村地主の保有面積を最高五町歩と定め、百五十万町歩に上る自作農創設等を図ることにしたのであるけれども、未だ不徹底たるを免れなかつたので、昭和二十年十二月九日付連合国最高司令官からわが政府に、農地改革に関する覚書(メモランダム)が発せられ、「日本国政府は民主主義的傾向の復活強化に対する経済的障碍を除去し、個人の尊嚴に対する尊敬を確立し、数世紀に亘る封建的圧迫により日本農民を奴隷化し來つた経済的束縛を破壞せんが爲、日本の土地耕作者をして労働の成果を享受する上に、一層均等なる機会を得しむるよう、確実な処置を講ずべきことを指令」せられ(第一項)、この指令の目的は「全人口の殆ど半分が農耕に從事し居る国において、長期に亘つて農業機構を蝕み來つた甚だしい害惡を根絶せしめんとする。」にあつて(第二項)、この線に沿うてここに第二次農地改革が行われることとなり、同指令中でわが政府は「昭和二十一年三月十五日までに、農地改革案を最高司令部に提出すべきことを命令」せられ、その改革案には「イ、不在地主より耕作者への土地所有権の移讓、ロ、非耕作地主より公正なる価格にて農地を購入する爲の規定」等の計画を含むべきものとせられたので(第三項)、右期限にわが政府は最高司令部に改革案を提出し、連合国対日理事会においても、具体的に買收対価、在村地主の保有面積等につき論議が重ねられた模樣で、その後連合国最高司令官の指示承認の下に、漸く関係法案の整備成り、農地調整法の再度の改正法(昭和二十一年法律第四二号)と、同法から分離独立させた自創法(昭和二十一年法律第四三号)が、昭和二十一年十月二十一日公布せられ、自創法が特に目的とする「耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図る」ことが実行に移され、当時の全国小作地の約八割を超える、不在地主の小作地全部と在村地主の平均一町歩超過の小作地とが、政府の手を通じて、二年間に自作地となり、また農地の開発に供する未墾地等が、積極的に開放せらるることとなつた次第である。それ故に自創法は、昭和二十年勅令第五四二号「ポツダム宣言の受諾に伴ひ発する命令に関する件」に基ずく勅令(所謂ポツ勅)の形式にはよつていないけれども、連合国の日本管理法令たる性格を有するものであつて、その嚴格な施行は日本政府に課せられた至上命令というべきである。このことは、その後同じく農地改革に関し昭和二十三年二月四日わが政府に発せられた覚書中で「自創法及び農地調整法は、上記参照覚書(前掲昭和二十年十二月九日の覚書を指す)に從つて封建的土地所有制度を廃止し、公平且つ民主的な基礎による土地の再分配に対する経済的障害を取除くため、制定せられたものである」(第二項前段)、「土地改革計画の強力な実施は、日本に眞に自由且つ民主的な社会を創設するための先決要件である。これは連合軍の日本占領主要目的の一つであるばかりでなく、また日本国民の主要目的の一つでもある。從つて上記両法律の嚴正強力且つ恐れることなき実施は、不可欠な至上命令である」(第三項)と述べられてあるに徴しても、明かであるといえよう。從つて「ポツダム」宣言を受諾し降伏文書に署名した現在のわが国において、右のように連合軍最高司令官の覚書に基ずく法規は超憲法的なものであり、控訴人等の主張する自創法中の各規定が、憲法の条項からみて無效であるかどうかの檢討は許さるべきものではないので、同法所定の手続に基いて行われた本件農地買收計画を目し、憲法違反の無效の法律規定によつて爲された違法の処分であるとして、これが取消を求むる本訴請求は、いずれもこの点において到底認容の限りでない。
なお本件買收の対照となつた土地の中には、未墾地(山林)もあるが、その買收の対価については自創法第三十一条第三項(同法第三十八条第二項により準用せらるる場合を含む)により、命令の定むるところによつて「当該土地の近傍類似の農地の対価」を参酌して定めるのであつて、同条及び関係命令たる同法施行令第二十五条等によれば、やはり自創法第六条第三項所定の基準に從う近傍類似の農地の価格の範囲内で定められることになつているから、前段農地について述べたと同樣の理由により、本件未墾地の買收価格についても、違憲の問題は起らない。
然らば控訴人等主張の理由によつて、本件農地等買收計画決定の取消を求むる本訴の各請求は、いずれも失当であるから、これを認容しなかつた原判決は相当で、本件各控訴はその理由なきにより、いずれもこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して、主文の如く判決する。
(裁判官 斎藤直一 藤江忠二郎 山口嘉夫)
(目録省略)